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 ※前年以前の活動方針については、ページ下段のPDFを参照ください。
 

202010月10

北見市芸術文化ホール

 

石北沿線ふるさとネットワーク第5回総会

活動方針

 2020年活動方針

はじめに

 2016年、JR北海道が「単独では維持困難な路線」を公表して以来、私たちは一貫して二つのことを主張してきました。第一にはこの問題は全国のローカル鉄道に共通する問題であり、鉄道を民間事業者のインフラとする考えをあらため、公共インフラとして国が支える鉄道政策への転換が必要であるということ、第二には国による下支えがあったとしても、市町村や都道府県は地域鉄道の当事者でなくてはならないということです。

新型コロナウィルスの感染拡大は、日本の交通事業者にかつてない重大な経営難をもたらしています。アフターコロナを見据えても、「新しい生活様式」は公共交通のあり方に抜本的な転換をもたらすこととなります。2016年以降、私たちが主張してきたことはコロナ禍を機に日本の鉄道政策全体の普遍的課題になっているのです。

この総会においてはコロナ禍の下において起きていること、アフターコロナがもたらすであろう公共交通の変化を考えながら、JR石北線の存続、全道鉄道網更には全国の地域鉄道の維持のために必要なことが何かを明らかにし、そのもとで私たちが何しなければならないかを提起します。

※ここでいう地域鉄道とは、地域住民の生活圏の中にあって生活移動に関わる区間であり、既存の路線の一部であったり、複数の自治体をまたがる区間である場合もあります。地域公共交通網に包含されて機能する線区間を意味し、必ずしも現状の営業路線区間とは一致しません。

コロナ禍の下、JR北海道の中で起きていること

9月9日、JR北海道は本年4月〜6月期(第一四半期)の決算を発表しました。鉄道事業の営業損益は219億円の損失、対前年比で103億円の赤字拡大となりました。とりわけ札幌圏の落ち込みが激しく対前年比54億円、2.5倍の大幅な赤字拡大となりした。JRが単独で維持できるとしてきた10線区及び新幹線の赤字の合計額は156億円、JR北海道全体の7割を超えています。

JR北海道は2020年度の減収を最大300億円と見込んでいます。国からの支援金200億円、運賃値上げによる40億円の増収が帳消しになる事態です。

こうしたなか、8月12日には日高線の7町長が鵡川−様似間のバス転換受入を表明し、18日には留萌線の4市町が沼田−留萌間のバス転換を容認しました。収益悪化のなかで転換支援金が減額されることを危惧しての決定です。まさにコロナ禍によってローカル線の廃線が余儀なくされています。

露見した鉄道政策の欠落

JR上場4社と大手私鉄19社が発表した本年度第一四半期の決算は5000億円の赤字となりました。このままコロナの感染拡大が止まらず、各鉄道会社の稼ぎ頭である都市部の利益が確保できなくなれば、不採算路線の廃線が一気に現実化しかねません。

現状の日本の鉄道政策では、ローカル線の存続は鉄道会社の内部補助(稼ぎ頭の利益で赤字路線の補填をする)に委ねられています。一極集中した都市の機能停止と観光需要の消滅によって北海道だけではない全国のローカル線の存続が危機にさらされています。

更にアフターコロナの状況においては、テレワークの浸透、事業所自体の地方移転等の変化が進みます。「都市一極集中」から「多極分散」への社会経済システムへの転換は、稼ぎ頭である都市求心型の路線の比重を弱め、都市間移動路線と生活路線の役割を高めることになります。

ウイズコロナ、アフターコロナの下で起こる変化に現状の鉄道政策は対応するすべがありません。日本の鉄道政策は否応なし「第三の時代」に進まなくてなりません。そしてその政策のキーワードは鉄道事業者の内部補助に頼らない公共交通の確立にほかなりません。

JR北海道は「単独では維持困難な路線」の公表に際し、「維持困難路線」について沿線自治体による「上下分離方式」の導入を求めました。まさに「鉄道事業者の内部補助に頼らない公共交通の確立」を求めたのです。

しかし現行制度での「上下分離方式」は生活圏を範囲とする地域交通は賄えても、長距離の都市間輸送や物流を担う路線を維持することを政策の範疇としてはいません。北海道の鉄道が果たしている機能は、生活移動にとどまらない都市間移動、観光、物流、更には領土問題という国家戦略にまでかかわるものです。その多様な機能を果たす鉄路の維持負担を沿線自治体のみに負わせることは、負担するものとその便益を享受するものとの不整合を生み、負担する側への著しい片務を強いることになります。

JR北海道が真に「上下分離」の導入を沿線自治体に求めるのであれば、現行制度での「上下分離」ではなく、鉄道政策の改正を沿線市町村、道とともに国に要求すべきです。

JR北海道の路線問題やコロナ禍での公共交通の苦境が示しているのは、民間鉄道事業者の商業ベースの運行のみでは、社会経済上の「必要なサービス」を提供しきれないという事実です。今、日本の鉄道政策は、民間事業者の内部補助に頼るのではなく商業サービスと公的サービスを協働させて「必要なサービス」を提供する枠組みに転換することが求められています。

このような枠組みはEUにおいてはPublic Service Obligation=公共サービス義務として鉄道運行の基本として制度化されています。日本においても「生活圏」という限られた範囲での制度ではありますが、「上下分離方式」として実現しています。

コロナ後の鉄道政策として必要なことは、生活圏という範囲を超えて都市間移動、観光、物流、時には国家戦略という鉄道が担っている領域や機能に応じて、市町村(時にはその連合)、都道府県(時にはその連合)、国のそれぞれがサービス提供の当事者となるための枠組みを構築することです。その考え方や財政を含めた枠組みは、道路がその機能によって国道、都道府県道、市町村道として管理運用されていることと何ら変わるものではありません。

 

鉄道サービスの当事者となることを沿線自治体に求める

鉄道が地域の社会経済上「必要なサービス」でありながら、そのサービスが商業ベースによっては担えないのであれば、市町村は直営、共同・協同、委託、その他さまざまな形態やレベルによって、そのサービス提供の当事者になるべきです。地域のおける移動サービスを充足させるために、地域にある交通資源をどう組み合わせ活用しコントロールするかを考えることは市町村以外にはできません。

サービスの必要な区間、時間、量の決定、鉄道とバスその他の交通手段との連続性の確保、そのための互いのダイアや路線の改編・編成、パークアンドライドのための環境整備等は、自らが当事者になればこそ迅速かつ柔軟に実行できるものです。それはサービスニーズの充足だけでなく新たな公共交通利用者の創出につながります。この取り組みは「地域公共交通網形成計画」としてプランニングされ、Maas(モビリティ・アズ・ア・サービス:一次交通から三次交通までを統合した交通サービス)として実践する必要があります。

「道南いさりび鉄道」や「銚子電鉄」の例を見るまでもなく、当事者であればこそ、「この鉄道に如何に人を呼ぶか」の知恵が生まれ、新たな観光が作られ、プロモーションに励み、ホスピタリティーが発揮されます。それは地域の魅力を地域の外へ、全国へ発信することであり、この地域へ人々を呼び寄せる原動力になるのです。地域自らが公共交通の当事者になるということは、こうしたプラスのサイクルを地域が手にすることなのです。

商業ベースでは担えず「公共サービス」が提供する便益は、必ずしも対価として直接収入できないものもあります。しかし鉄道は複数の機能を持って全国につながっているのです。市町村はその担っている機能と提供する便益にあわせて国、都道府県あるいは他の鉄道事業者から「契約関係」として利用料や交付税を、あるいは管理に係る委託料を当然に要求できるのです。

 交通政策基本法改正へ、方法論の議論を速やかに開始すべき

 国の監督命令を受けて、JR北海道は2019年20年を「第一期集中改革期間」として、沿線と一体となった利用促進策「アクションプラン」を進め、21年から23年の「第二期集中改革期間」においては「中長期的視野でのあるべき交通体系について検討する」としていました。

 コロナ禍の出現は、これらの取組みの多くを足踏みさせていますが、その一方で鉄道事業者への公的支援に慎重であった政府与党内に重要な変化を起こしています。

自民党の鉄道調査会と鉄道議員連盟が「交通政策基本法」改正の検討に入りました。検討の原案では「地域社会の維持・発展を図るため、国が交通網整備や輸送サービスの提供に必要な措置を講じる」との項目を追加するとしています。この「必要な措置とはなにか」が問題となります。単なる財政支援を超えて、「公共サービス義務」の様な鉄道インフラや運行に国や地方公共団体が責任を負うシステムをどこまで入れるかが焦点です。

この間多くの学者、研究者、政治家、経済団体から「百家争鳴」と言えるほど多くの提言が出されています。それらの提言を議論精査し「交通政策基本法」及びその施行法である鉄道事業法や地域公共交通活性化再生法の改正に焦点をあて、そこに反映させる内容を速やかにまとめ上げる必要があります。そのシステムにおいても、私たちは二つの視点、すなわち鉄道を鉄道事業者の内部補助を前提にしない公的インフラと位置付けること、地域鉄道については沿線自治体を当事者として参画させること及びそのために地方交付税による財政的裏付けを行うことが必要だと考えます。

法律改正を目指す取り組みが必要です。私たちは鉄道存続を目指す道内・全国の諸団体、学者・研究者、政治家と協力し、国会内での学習会の開催や超党派議員団の立ち上げを目指します。

私たちの鉄道のために私たちは何をするか

地域鉄道が住民の生活移動に果たす鉄道であったとしても、それが一本の線路によって全国につながっている限り、都市間移動や観光、物流の機能も担っています。つまり地域の住民が生活移動手段として鉄道を活用することは都市間移動や観光、物流という機能を補完していることであり、逆に都市間移動や観光、物流に鉄道が利用されるこは生活移動手段としての機能を維持してくれることでもあります。

JR北海道は本年8月と9月に豪華周遊列車ザ・ロイヤルエクスプレスを走らせました。私たちはこの列車に「市民の歓迎の旗振りをしよう!」と訴えました。それはまさに観光列車が我々に果たしてくれる補完関係に感謝するからにほかなりません。9月22日にはJR北海道が主催し全道30駅以上で開催するヘルシーウォーキングの北見ウォークが開催されました。このイベントには全道から70人以上が参加し、朝のスタートに合わせほとんどの方が前泊をされました。とても地味で小さなイベントですが、70人もの方が前泊された経済効果は決して小さくありません。観光とは耳目を引く大きなイベントばかりではありません。特定の興味や関心に基づいた小さな観光に着目し、愛好者が集まり、小さな取組みを気軽に日常的に企画・実施することが重要です。イベント開催にあたっても「JRを使って〇〇に行こう!」を必ず合言葉にしていく必要があります。車による移動を当たり前にせず、「これはJRやバスで行けないか?」「JRやバスで来てもらうためにはどうするか?」の見直しをする、そうした取り組みからマイレール意識を育てていく必要があります。

JR北海道は8月5日、「アクションプラン」の1年目である2019年度の結果を国に報告しました。国交省はこれに対し「人口減、利用減の中で利用促進の取組が一定の成果を上げている」と評価しました。コロナ禍の下で、多くの取組が足踏みをしていますが、引き続きJR北海道、沿線自治体、住民が一体となって利用促進に努めていく必要があります。

 JR石北線の利活用促進に向けて、私たちは昨年の第4回総会において4つのテーマを立てました。本年も、この4つのテーマに沿ってそれぞれの取組を強めていきます。

@石北線の観光路線としての価値と可能性を高める

 コロナ禍の影響を受けて、ほぼゼロにまで落ち込んだ観光需要は道内需要から徐々に回復し、道外からの観光客も日々拡大傾向を示しています。道の補助金を活用した「HOKKAIDO LOVE 6日間周遊パス」の利用は好調(2021年1月までの販売予定が、9月29日で完売)で、石北線でもこのパスを利用した観光客が目立ちました。9月の4連休では特急1列車辺り100人を超える列車も出、北見でもかなりの乗降がありました。ザ・ロイヤルエクスプレスの乗客も北見でのアクテビティを楽しみました。石北線はオホーツク・知床へ観光客を運ぶ路線であるとともに、沿線の着地型観光・体験型観光プログラムとの連携を進めることで、観光路線としての可能性は確実に高まります。私たちは観光協会や旅行会社と協力し引き続き「石北沿線応援ツアー」を企画・実施します。

 オホーツクの観光戦略の中に石北線をどう位置付けるかの最大の課題は西女満別駅です。女満別空港から直線距離でわずか700メートルであるのに、空港との結節は全くありません。空港へアクセスする公共交通はバスとタクシーです。西女満別駅を「女満別空港駅」として機能させることで、バスとタクシーは直接観光目的地へと運ぶ新たな路線開発が可能になります。私たちはそのことを可能にするために、オホーツクの1次交通から3次交通までを一貫して観光対応する「オホーツク広域観光Maas」の形成を呼掛けます。

A利便且つ快適な移動手段としての石北線の優位性を高める

都市間移動としての石北線はバスや自家用車と競合関係にあります。しかしその一方で鉄道での移動を優先する利用者がいます。それは移動時間にパソコン作業や文書作業を行うビジネスマンであり、幼い子供を連れた家族です。こうした利用者の確実な選択を獲得するためにはコンセントやWiFi、授乳スペースやフリースペースなど利便性や快適性を高める車輛環境の整備が必要です。そのためにも新たな車両編成である「はまなす編成」の石北線への導入を強く要求します。

更には、土日祝日に限られている沿線自治体の特急車内販売を拡充し、平日夕方の特急において酒類販売を行うなど、帰社帰宅するサラリーマンのニーズに対応する必要があります。その実現のために関係する行政機関の理解と協力が不可欠であり、それを強く求めます。

Bタマネギ列車の死守と貨車輸送の拡大を

「タマネギ列車」に象徴される石北線の物流機能は路線存廃に直結する重要な機能です。生産量日本一を誇る北見タマネギが全国に運ばれる量は年間30万トンを超えます。そのうち鉄道輸送が担う割合は20%弱ですが、物流業界はこれを「黄金比率」と呼び、安定的鉄道輸送の確保を強く求めています。

タマネギの通年出荷をめざすきたみらい農協の取組みはタマネギ列車の通年運行にもつながるものでその取組みに大いなる期待と敬意を表します。石北線の貨物輸送では帰り貨車の「空荷」が問題です。ホクレンによる農業用段ボールの貨車輸送は「片荷列車」の解消をめざすもので、JR貨物の安定運行に貢献する重要な取組みです。こうした農業関係者の取組に比して商工業者の取り組みは進んでいません。片荷列車」の解消に向けて企業の知恵と努力が求められます。

かつて、市ガスから北ガスへの事業移管にあたって、当初は液化燃料の貨車輸送が想定されていたにもかかわらずそれが実現していません。貨車輸送を実現できない事情が何であったのかを検証しその実現のための条件を充足し、液化燃料の貨物輸送を実現させる必要があります。

C生活路線としての利便性向上に取り組む

沿線別「アクションプラン」において、石北線は「生活移動としての鉄道」の利活用が課題とされています。しかし、石北線が賑わいを見せるのは朝夕の通学時のみで、それ以外の時間に列車に乗る人の姿はまばらです。今あらためて問い返すならば、通学列車として以外、石北線を「生活路線」として活用しようという発想を欠いていたといわざるを得ません。

「アクションプラン」が提起している中に「バスなど他の交通機関との連携」があります。鉄道ダイヤとバスダイヤの連携、バス路線と鉄道路線との競合の排除と相互補完、バスと鉄道を乗り継ぐ場合の料金割引などが課題となります。

生活移動手段として鉄道の利活用を進めるために必要な課題は他にもあります。一つは「パーク&トレイン」の推進です。車通勤を列車通勤にシフトさせるためには郊外駅周辺の駐車場整備が必要です。更には駅のバリアフリー化です。新市庁舎が駅直近に建ち、商業施設があり、駅裏には図書館や文化施設があるのに、鉄道を使ってそこへ行こうとしないのは、駅の階段がバリアとして存在しているからです。駅南に移転した中央図書館は利用者数を増やす一方で高齢者の利用を減退させています。北見駅のホームをまたいでいる中央プロムナードに改札を設けエレベータを設置するだけで駅周辺施設へのアクセスは完全にバリアフリー化されます。

北見市は「地域公共交通網形成計画」の原案を策定しましたが、私たちは石北線を生活路線として活用するために「地域公共交通網形成計画」の中にこれらの課題を盛り込むことを要求します。

 最後に

この夏、ザ・ロイヤルエクスプレスが石北線を走り、多く市民や小さな子供たちが小旗を振ってこれを迎え、北見で降りた乗客をホスピタリティ溢れるアクティビティでもてなしました。過去の石北線では見られなかった光景です。そこには石北線の将来の可能性が見えます。「石北線の利用促進」という課題を通して、私たちは地域に新しい観光を作ることができます。その実践を通し多くの人々に「鉄道は新しい地域おこしのツール」であることを実感し、「石北線は私たちの鉄道」というマイレール意識を醸成し、更なる利活用のらせん階段が作られます。

私たちはその事を信じ、そのことを願い石北線の利活用運動の先頭に立って行動します。 


2016年活動方針
2017年活動方針
2018年活動方針
2019年活動方針